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うつ病

つらいことや悲しいことがあれば、誰もが多かれ少なかれ、気持ちが落ち込んだり、不安になったり、ネガティブ思考になったりするものです。その他にも、人によっては、眠れなくなったり、食欲が落ちたり、頭痛やめまいなどの体の症状が出ることもあります。

こういった症状が、ある程度の重さで、ある程度続いた状態を、精神医療では「抑うつ状態」と呼んでいます。

その抑うつ状態が、実際につらいことや悲しいことが原因になって起きている場合(←ストレス反応や適応障害などと呼ばれます)は、ストレスを変えたり避けたりする環境調整や、ストレスの受け止め方を変えたり打たれ強さを鍛えたりといったカウンセリングが大切になります。

しかし抑うつ状態の原因はストレス性のものだけではありません。意外なことに、体の病気が原因で抑うつ状態になることもあるのです。その代表的なものは、更年期障害(加齢による性ホルモンの低下)や、甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモンという元気ホルモンの低下)などです。

その場合は、精神科の受診よりも、婦人科や内分泌内科などの体の病気を専門としている科を受診して、専門的な検査や治療をすることのほうが大切です。

さて、ここまでで、抑うつ状態が起きる原因として、ストレスから生じる心の病気(≒心因性)と体の病気(≒外因性)を説明してきましたが、他にももう一つ、脳の病気(≒内因性)があります。

その厳密な原因究明にはまだ至っていませんが、現時点では、脳内ホルモンのアンバランス(セロトニンの低下など)が原因だろうと考えられています。

この場合は、身体的な検査をしても、当然、どこにも異常はみられません。つまり、体の病気としては説明できないのです。

同様に、これまでの出来事を振り返っても、なぜこの人がこのタイミングでこのような症状が起きたのかがいまひとつよく分からないことが多いです。つまり、心の出来事としては理解しにくい、ストレス性のものとは考えにくいということなのです(←これを「了解が困難」といいます)。

ですから、本人自身も「なぜ自分がこんなふうに落ち込んでいるのかが分からない」と不思議がっていたり、ご家族も「急に性格が変わってしまったようだ」と困惑されていることが多いです。

このような抑うつ状態を、昔は内因性うつ病と呼び、抗うつ薬(セロトニンの低下を補うなどの作用を持ちます)による薬物療法を中心にして治療を行ってきました。そして実際に、服薬をしっかりとすればしっかりと治ることが多かったのです。

しかしこの話には問題がひとつあります。

それは、外因性の抑うつ状態が身体的な検査によって明確に診断しやすいのに対して、心因性の抑うつ状態と内因性の抑うつ状態との区別には決定的な検査法がなく、治療者の主観や経験に頼る面が大きいため、このふたつを正確に区別をするのは、実際には難しいということです。私の経験でも・・・

私が「了解できる経過だからきっと心因性でカウンセリングが大切になるだろう」と思っていた患者さんでも、カウンセリングをいくらしても空振り続きで、薬物療法を試したとたんに拍子抜けするぐらい急速に症状が消失することがありましたし・・・

逆に、私が「了解が困難な経過だからきっと内因性で薬物療法で良くなるにちがいない」と確信していた患者さんでも、薬物療法をいくら続けても何の手ごたえもなく、カウンセリングを導入したところでやっと改善してくるということもあるのです。

つまり、実際に治療をしていくなかで、あるいは長期間の経過を追いかけていくなかで、だんだんと最初の診断の不正確さが分かってきて、正しい診断名が見えてくるということも少なくないのです。

さらに言えば、ストレスで落ち込んでいる面と脳内ホルモンのアンバランスで落ち込んでいる面のどちらもある場合も多く、その場合には、カウンセリングも薬物療法も大切になります。

このような事情があり、現在は、抑うつ状態になっている方については、いろいろな検査で体の病気ではないことが確かめられさえすれば、あとは(心因性とか内因性とかの区別はせずに)一括して「うつ病」と呼ぶことが一般的になっています。

また、国際的な診断基準(WHOで決めたICDやアメリカ精神医学会で決められたDSM)でも、様々な呼び方が提唱されていますが、どちらにしても原因のことはもうあまり問わずに、単純に現在の症状の重さで分類する傾向にあります。

しかしそうなると、今度は、あまり時間がとれない日本の精神科医は、患者さんが抑うつ状態に至った事情については無関心になり、「現在の症状と診断基準を単純に見比べて機械的にうつ病と診断して、あとはひたすら抗うつ薬を出すだけで自分の役割は果たされている」と割り切って思考停止してしまっているようなケースも散見されています。ですから、これに対する反省として、やはり内因性と心因性(←それらを指す用語は論者によって様々ですが)を区別すべきではないかという論調も復活してきました。

このように、うつ病は、現代でもまだよく分かっていないところが多く、その原因究明にせよ治療法にせよ、試行錯誤をしながら見つけていっている段階にあります。

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