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双極症(躁うつ病)

うつ病では抑うつ状態だけが生じます(←単極性)が、躁うつ病ではその反対の躁状態も生じます。この特徴を「双極性」と呼ぶので、躁うつ病は双極性障害や双極症と呼ぶことが多くなっています。

うつ病の原因が脳内ホルモンのアンバランス(セロトニンの低下など)であることが分かってきていますが、躁うつ病の原因については、まだ分かっていないことが多いです。しかし・・・

①なぜこの人にこのタイミングでこのような症状が出るのか・・・が心理学的には理解しにくいこと(つまり「了解」が困難であること)。

②カウンセリングなどの心理的な対応法が空振りになりやすい一方で、リチウムなどの薬物療法が効果的であること

・・・などから、やはり何らかの脳内ホルモンのアンバランスが原因なのだろうと考えられています。

実際のところ、躁うつ病の躁状態では、極端に言えば・・・

もともと真面目で、仕事熱心で、職場でも上司とも部下ともうまくコミュニケーションができて、貯金も堅実にしていて、配偶者への貞節も守り抜き、家族のことも大切にしていているから家族仲もとても良好な人であったとしても・・・

躁状態になったとたんに、順法意識が欠如し、性格が変わったように不真面目になり、仕事も独りよがりになり、部下をこき使い、上司をパワハラで訴え、貯金を浪費し、浪費しきったら借金を作り、性的な逸脱行動もして、ささいなことで家族を罵倒して家族関係がギスギスしてしまい・・・

・・・ということになり、周囲の人々が「なんであの人がこんなふうになってしまったの?」と傷つき、戸惑うことがあるのです。

ところがこんなにひどいことになっても、リチウムなどの薬をしっかりと飲めば、まるで憑き物が取れたように治って、本来のその人に戻ることができるのです。

ですから、躁うつ病の治療で大切なのは、躁うつ病はそもそも心理的な問題ではないのだと理解することと、心理的な問題ではないのだから心理的なアプローチなんかよりも薬物療法などの脳に作用する治療を優先することになります。

そしてそれを実現するために最も大切なのは・・・

みんなが「躁うつ病の治療で大切なのは、躁うつ病はそもそも心理的な問題ではないのだと理解することと、心理的な問題ではないのだから心理的なアプローチなんかよりも薬物療法などの脳に作用する治療を優先することなんだ」ということを、しっかりと理解できるようにする

・・・という心理的なアプローチです。

まず、治療者がそのように理解できていることが大切ですが、職場の関係者にとっても大切ですよね。つまり、あのような言動は本人が自分の意思で選んでやっていることではなくて、病気にやらされているだけなんだと理解できているということです。

それから、日常的に接している家族にとっては、さらに大切なことですよね。

つまり、あれもこれも、みんな、病気にやらされているだけだったんだ。本人は加害者ではなく病気の被害者なんだ。躁状態のときの本人は病気に操られているだけで、本来の本人とは別なんだと理解するということです。

そして最後に、もちろん、本人にとっても大切なことです。

つまり、あれもこれもみんな「自分では気づかなかった自分の本性が現れた」というわけでも、「自分の無意識にそのような隠された願望があった」というわけでもなくて、単に「病気の症状がそういうものだった」ということなんだ・・・と理解するということです。

というのも、躁うつ病の方のなかには、リチウムなどの薬物療法で躁状態が収まった後で、自分が躁状態のときにやってしまった様々な暴走・失敗・トラブル・迷惑行為・・・そして本来の自分ならば絶対にやらないハズだった大切な誰かを傷つけてしまったことを思い出しては自分を責めたて、追い詰め、悩み苦しんだ挙句、すっかり落ち込んでしまう方が少なくないのです。

なかには、そのことを悔やんでも悔やみきれず、詫びるに詫びれず、とうとう償いとして、自分の命を差し出してしまう人もいるのです。

だから、(ただでさえ病気の症状で周期的に抑うつ状態になってしまうのに、これに加えて)躁状態のときのことで不要に自分のことを責めて落ち込んでしまうのは、何としても避けたいのです。だから本人にとっても、「躁うつ病は心理的な問題ではなくて脳の問題なのだ」と理解してもらうという心理的なアプローチが、とても大切になるのです。

さて、このような心理的なアプローチがうまく行き始めると、本人も家族や周囲の関係者も、躁状態に対する知識が身についてくるので、躁状態の初期症状にも、早く気づくことができるようになります。


早期発見をして主治医に早めに報告してもらえれば、主治医も早期治療ができるようになります。早期治療ができれば本格的な躁状態に発展するのを未然に予防できて、軽度の躁状態で済ませることができて、周囲の関係者も、家族も、そしてもちろん本人も、躁状態から受ける傷つきや被害を最小限に抑えることができるようになります。

このときに、私が観察ポイントとしてオススメしているのは①睡眠時間の減少と②家族喧嘩のエスカレートです。

まず①の睡眠時間の減少から説明しますと、躁状態になると睡眠時間の減少が必発といっていいほど生じるのでオススメしているのです。

ところで躁状態でなくとも、たとえばいろんな悩みがあって不安になったり落ち込んでいるときも、不眠になって睡眠時間が減りますよね。でもその場合には、翌日に疲れが残ったり、睡眠不足な感じがしているものです。

一方、躁状態のときの睡眠時間の減少の場合は、たとえばたった2時間しか眠っていなくても、しっかりと熟眠感があって、疲れも取れていることが多いのです。だから、「睡眠時間が減少しているのになぜか本人自身は全然困っていない」となったら躁状態の再発を疑うのがよいでしょう。

次に②の家族喧嘩のエスカレートの話をします。さきほど説明したとおり、躁状態になったら家族喧嘩が増えることが多いのですが、しかし理解をここまでにとどめておくのはよくありません。

というのもこれだけでは、一度ある人が躁うつ病と診断がされたら、「相手が悪いことをして本人が怒っても当然の家族トラブル」が起きて、本人が当然の権利として怒ったときでも、他の家族から「病気の症状に過ぎない」と思われてしまい、誰もまともにとりあってくれなくなってしまう・・・ということが起こりうるからです。

だからここで大切なのは、違う人間が同じ屋根の下で生きている以上は、多少なりとも家族トラブルは生じるもので、だから家族喧嘩も多少はあるのが健康で普通の状態なんだと理解することです。そして、家族喧嘩がいつもよりも妙に多いぞとか、なんだかいつもと質の違う喧嘩になっているぞ・・・と思ったところで初めて躁状態の再燃を疑うようにしたほうがいいでしょう。

ちなみにクレームなども同じ発想で考えましょう。つまり、違う人間が同じ地域で生きている以上は、多少なりともトラブルは生じるもので、だからクレームも多少はあるのが健康で普通の状態なんだと理解して、それがいつもよりも妙に多いぞとか、なんだかいつもと質の違うクレームになっているぞ・・・と思ったところで初めて躁状態の再燃を疑うようにするのがよいと思います。(もちろんクレームとは全く無縁の方が急にクレームを言い始めたら要注意です)。

さてここまでの話では、躁状態を本人にも周囲の人々にとっても迷惑千万で有害無益な現象として説明してきました。

しかし実際には、本格的な躁状態に至る前のごくごく軽い躁状態は、本人にとっては、妙に気分がいいし、テンションが高いし、エネルギーが湧いてくるし、いろんな楽しいアイデアが思い浮かぶし、睡眠不足でも眠くならないから便利だし、自制心が残っているから多少乱費したとしても自分の貯蓄の範囲内で抑えられてるし、家族とも会社の人たちとも明るくほがらかなコミュニケーションができて、多少トラブルが起きても大問題にまでは発展しない程度で収められるし・・・と・・・とても楽しい幸せな時期であることも多いのです。

だから、一度でもその時期の「幸せで充実した感覚」を知ってしまうと、健康で普通の気分の状態というのは、本人にとっては、いまひとつ気分の盛り上がりに欠け、テンションが低めで、エネルギーが足りず、刺激も少なく、ドラマ性に欠けていて、平凡で、ありきたりで、面白くないと感じてしまうことがあります。

すると、そのような健康でちょうどよい気分の時期のことを「うつっぽくって調子が良くない」と考えるようになります。

それで「今の自分は本来の自分ではない。本来の自分の元気さ(←本当はごく軽度の躁状態のことで病的な状態なのですが・・・)が薬によって抑え込まれてしまっている」と考えていて、勝手に薬を止めてしまうこともよく起こります。

するとじわじわと躁状態に入っていって、最初のうちはみんなハッピーなんだけれども、そのような「ちょうどよい躁状態」を維持するのは難しく、大抵は本格的な躁状態に発展してしまい、最終的には周囲の関係者も家族も本人も、みんなが不幸になってしまう・・・ということになります。

ですから、躁うつ病の方にとって大切な心理的アプローチではもうひとつ、「みんながハッピーに過ごせるごく軽度の躁状態で生きていく」という人生をあきらめて、「ちょっとテンションが低くて、刺激が少なく、ドラマに欠けて、平凡で、ありきたりで、面白くない健康で普通の気分の状態」を受け入れるということも大切になっています。

実はこれに加えて社会リズム療法というのも大切なのですが・・・ちょと文章が長すぎなので、これについてはネット検索すればいろいろと情報が載っていると思うので割愛します。

最後に、この数年が有名になってきた躁うつ病の特殊なタイプを紹介しておきます。それは抑うつ状態が躁うつ病と同じように起きる一方で、躁状態が典型的な躁状態までには至らず、軽躁状態で収まるタイプの躁うつ病です。

このタイプの場合は、軽躁状態のことも病気の症状だと診断されるのに時間がかることがあります。つまり、テンションの高い人とか情緒不安定な人が、ときどき抑うつ状態になるというふうに、うつ病の一種だろうと思われやすいのです。すると当然、抗うつ薬が使われることになりますが、躁うつ病の方は抗うつ薬の副作用で躁状態になりやすい(←これを「躁転」と言います)ので注意が必要です。

診断が遅れるという点では、躁うつ病のなかには、最初の数年は抑うつ状態の時期しかないというタイプもあります。その場合は、抑うつ状態しか出ていない段階で躁うつ病と診断するのは至難の業で、様々な抗うつ薬を使っても効果がないときなどに、このタイプの躁うつ病である可能性を疑ってリチウムを試すなど、試行錯誤をしながら、治療を進めることになります。

補足:落ちている気分を持ち上げる作用のある薬を抗うつ薬と呼ぶのに対して、上がりすぎている気分を下げる作用のある薬を抗躁薬と呼びます。代表がリチウムです。向精神薬としてはめずらしいことですが、(抗うつ薬などの人工物質ではなく)温泉水にも普通に含まれている天然のイオン物質です。

ところがリチウムには、抗躁作用だけではなくて、抗うつ効果もあります。つまり、気分が上がりすぎていたら下げるし、下がりすぎていたら上げて、気分の上下の波を小さくしていくのがリチウムの働きなのだということになります。

ですから現代ではリチウムは、抗躁薬ではなく気分安定薬と呼ばれるのが一般的です。また、一部のてんかん治療薬や統合失調症の治療薬にも気分安定作用があることが知られており、リチウムが副作用で服用できない場合や、服用しても効果がなかった場合などにはそれらへの変薬が検討されます。

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