トラウマ反応(PTSDなど)
研修医の頃、トラウマ(心の傷)の患者さんを初めて担当することが決まったとき、私は病院からの帰りに大きな本屋さんに駆け込んで、「トラウマ」と名のついた本をかたっぱしから買いました(←これが私の典型的な行動パターンです。医者になって以来、私はずっとこの作業を繰り返してきました。最近はネット購入のほうが増えてきましたが)。
自宅に帰り、さっそくどれから読もうかと思ったとき、「トラウマの治療法」という薄っぺらで黄色い表紙の本が目につきました。薄いからこの本から始めるのがいいだろうと思っていざ開いてみたら・・・なんとその本は、体の傷や出血や骨折などの対処法を書いた外科医向けの専門書でした。
実はもともと「トラウマ」という言葉の意味は「体の傷(外傷)」のことだったのです。そのうえで、「心も体と同様に傷がつくことがあるだろう」と考えられるようになり、心の傷のことを「心的トラウマ(心的外傷)」と呼ぶようになったのでした。そして日本語にはトラウマという言葉自体がなかったので、「心的トラウマ」から「心的」が略された「トラウマ」だけでも、「心の傷」を指すようになったということだったのです。
・・・なぜこのような小話をするのかというと、「トラウマによる精神疾患」と言われると、なかなか治らないというイメージをもたれてしまうことがあるからです。でも本当は、トラウマの多くが、自然回復することが分かっています。
たとえば、トラウマという言葉がもともと意味していた「体の傷」の場合はどうでしょうか?
傷ついていないフリをして無理をするのではなく、そこに傷があることを認めて、自分は傷ついたのだということを認めて、その傷をちゃんと消毒して、大切にいたわってあげれば、自然とかさぶたができて出血が止まって、少しずつ皮膚の細胞が再生されて、再生された後は勝手にかさぶたがとれて・・・
というように、何か特別なことをせずとも、どうにかしようともがかずとも、自然と治りますよね。
だから、心の傷も体の傷と同様に、傷ついていないフリをして無理をするのではなく、そこに傷があることを認めて、自分は傷ついたのだということを認めて、その傷をちゃんと消毒して、大切にいたわってあげれば、自然とかさぶたができて出血が止まって、少しずつ皮膚の細胞が再生されて、再生された後は勝手にかさぶたがとれて・・・
というように、何か特別なことをせずとも、どうにかしようともがかずとも、自然と治るものなのだろう・・・と考えられるのではないでしょうか。
このように、「体の傷ですら自然治癒力が働くのだから、心の傷に対してだって、自然治癒力が備わっているのはごく自然で普通のことだ」ということをお伝えしたいと思い、わざわざこんな小話をしたのでした。
しかし、とはいえ、体の傷の全てが自然に治るワケではないのと同様に、心の傷も全てが自然に治るワケではありません。そのような場合には、心的トラウマを癒すための様々なセラピーや技法を活用することになります。
ところで心的トラウマによって起きる精神症状をトラウマ反応と呼び、その中心になるのがPTSD(心的外傷後ストレス障害)です。その診断基準については、様々な議論があるのですが、PTSDの心的トラウマは、基本的には、実際に生命の危機にさらされたなどのある程度重いものに限られると考えられています。(つまり生命の危機に至らない程度の心的トラウマではPTSDとは診断されません)。
私はPTSDについての専門性はないのですが、心的トラウマの治療をしているカウンセラーの先生方とはいろいろなご縁があります。ですから、PTSDかどうかの診断とは別個に、現在の病状に心的トラウマの影響が考えられる場合には、トラウマに関するセラピーを紹介するようにしています。